startmac #1
Macintoshとの出会いは1991年。生まれて初めてアメリカの地を踏んだ年なので忘れない。IEEE Infocomというカンファレンスに参加するために出張することになった。当時は米国出張の機会なんてそうそうなかったので、カンファレンスへの出席だけでは何だか勿体なく、当時スタンフォード大学に留学していた知人を訪ねたり、またいくつかのシリコンヴァレーの企業を訪問したりした。
初めての出張、初めてのアメリカは、何もかもが鮮烈で眩しかった。カリフォルニアの青い空、しかも、西海岸便は出発日の朝に着くので、寝不足の目にはとてつもなく眩しい...、という物理的な眩しさもあったが、それ以上に、人種や性別や肩書きや年齢やその他諸々の属性を一切超えて、オープンにそして真剣に、これからの技術を議論する様子が、とても眩しく見えた。
その出張中、至る所で目にしたのがMacだった。スタンフォード大の研究室、Stanford Bookstoreの検索システム、訪問した企業のレセプションやデモルーム..。その白い直方体とシンプルなマウスがあまりにも強く直感に訴えかけてくるものだから、帰国後私は迷わず、Macを自宅用に購入した。運命的な出会いというのはこういうことかもしれない。当時定評のあったSE/30にディスク増強し、StyleWriterつけて50万円強(当時の給料手取り三ヶ月分、という感じ)。そして、職場でもMac推進運動(?!)をして、めでたくGet。当時の重要顧客がMacを使っていたので、「ファイル共有のため」という大義名分が効いたのだが、実際、ドキュメンテーションの美しさやMathematicaなどのソフトウェアは、それまでのワープロと表計算が主な用途であったPCの概念を大きく変えた。WYSIWYG(What you see is what you get)なるJargonに感動し、またHyperCardでオブジェクト指向ごっこをしたのもこの頃だ。フリーウェアでついてきたゲームがまたとても奥が深くて、バックギャモンやフライトシミュレータ、紙ひこうきなどにはまりまくった。
この数年後、私はシリコンヴァレーの企業(StrataCom)に転職することになる。転職の要因はいくつかあるが、初めての出張時の印象が強く、こんな風に仕事してみたいと思っていたのも、大きな要因の一つだった。入社するとPowerBook5300cを支給された。やった、Macだ。その後、StrataComはCisco Systemsに買収されたが、買収元のCiscoも当然のようにMacが標準だった。(IP全盛の今からすると嘘みたいだが、当時Ciscoは最大のAppleTalkユーザ企業だった。)
しかしこの状態は長く続かない。Windowsの猛攻にMacの旗色が悪くなり、企業もリスクマネジメントと称して社内システムと標準PCをWindowsに移行していった。Windowsは全く好きではなかったけれども、確かにNT等で安定性はよくなっており、しぶしぶWindowsユーザとなった。さらに最近は、企業はSOX compliance等でPCや情報の管理を強めるので、ユーザの自由度はどんどん無くなる。そのため、選択肢も無いままその後はずっとWindowsで、今に至る。でも、Macのことはずっと気になっていた。自宅の古いWindowsマシンは処分してしまったけれども、SE/30は捨てられずに取ってある。
そんな中、ひょんなきっかけからMacと再会することになった。ダメもとで応募したstartmacモニターに、何と当選したのだ。モニターには最新鋭のMacBookが貸与され、好きに使って良いらしい。すごいうれしい。思えば、技術者として歩み始めた初期に出会ったMacは、人間と技術を考えるきっかけでもあった。そしてあれから10数年経った現在、人間と社会と技術について考える時に来ている。これをきっかけに人間と技術についていくつか文章を書いてみようと思う。良い機会を与えて戴いたと思う。
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