整然と区画整理され舗装された新興住宅地などの道路を歩くよりも、例えば山林などで、もともと設計された訳でもないのに、皆が皆そこを歩くものだから自然に地均しされた、というような道を歩く方がわくわくするのはなぜだろう。そういう道って、迷いそうな岐路には誰かが矢印をつけておいてくれたり、見晴らしのよいところには、「ここで休憩するといいよ」とばかりベンチが置かれたりして、何だか温かい気持ちになる。思わず、行き交う人が微笑んだり声をかけたりして、人々が生き生きとする。
------
我々が何かを設計しようとするとき、基本的には、目的と境界条件を定め、その目的のために手段を最適化するように計画し管理する。しかしネットワークの場合、設計思想や振る舞いの違うシステム同士をつなげるため、予測しないことが起こり易い。ましてやインターネット。多様な自律組織の集合体であり、境界条件など設定することができない。特定の組織がネットワーク全体を制御したり計画管理するようなことはしない。だから明日何が起こるかわからないし、IPv6化などは未だに困難を極めているし、セキュリティ脅威や経路の問題は常に起こっている。そもそも、国際紛争や経済危機、地球温暖化や核問題など、世界中に多くの問題がある中、これだけ地球規模のシステムが動いていること自体が奇跡的のようにも思える。それでも地球は回っている。インターネットは動いている。
アーキテクチャ設計手法としては、ZachmanのフレームワークやDoDAF, MoDAF(*), IEEE1220, ISO15288など世の中にたくさんあるけれども、どれもインターネットに適用することはできない。アーキテクチャを設計するためには、まずはシステムの範囲を定め、目的と要件を定義するところが出発点になるためである。
(*) MoDAFは、DoDAFのOperational View, System View, Technical Viewの3つのViewpointに加え、Acquisition View, Strategic Viewを加えているので、システムの範囲は外に開かれている、と言えるかもしれない。しかし、その判断を行う設計者がいる、という点で、インターネットにはそぐわない。
ではインターネットに関することについては、我々は為す術無く、起こる問題に場当たり的に対処するしかないのだろうか。そんなときに出会ったのが"The Art of System Architecting"[1]であり、そこに参照されていた"Pattern Language"[2][3]だった。
「これらのパターンは、決して一度に全部を「設計」したり「建設」することはできない。だが、1つ1つの行為の積み重ねが、常にこれらの包括的なパターンの創造や生成につながるようにすれば、息の長い漸進的な成長により、これらのパターンを備えたコミュニティが、何年もかかって、徐々に、しかも確実に生まれてくるであろう。」[2]
このパターンの記述を、Janogがやったらすごいのではないか、と思った。でも、プログラム応募してみても、私の説明能力、表現能力も低く、こんな抽象的な提案が通る筈も無い。それでも一度、2010年のJanog26のLightening Talk枠で発表させて戴いたこともあった。また、IA研ワークショップでは、設計原理の一つに「集合知」を加えることを主旨とした論文も出した。しかし一部の個人が何をしようがしまいが、そもそもJanogというコミュニティは、自然に知を共有したり、共に何かを創造するコミュニティである。別にパターン記述にこだわる必要もないのだろう、という気持ちになっていた。(実際、私の興味はコミュニティにおける知の生成であり、パターン記述方法自体にこだわりがある訳ではない。)
そのような中、ささけんさんが、半ばむりやり、半ば強引にBoFを企画して下さった。えええ?!!、参加者の方の注意を惹くプロジェクタもなく、本会議終了後のわさわさとした会場で、こんな議論できるでしょうか。無理でしょう。と思った。しかしびっくり。けんさんのモデレーションも素晴らしく、参加して下さった方のご意見も一つ一つ大変貴重なもので、さらにポストイットを使ったクイックワークショップまでできた。素晴らしく内容の濃いものだった(事後資料)。けんさん、運営委員のみなさま、そして集まって下さった皆様、ありがとうございます!!
やっぱりインターネットって愉しい。Janogというコミュニティはすばらしい。ここはやはりAlexanderが「学習のネットワーク(Network of Learning)というパターンで述べていることを引用したい[2]。
「教えることを重視する社会では、子供や学生ーまた大人でさえーが受動的になり、自分で考えたり行動できなくなる。教えることではなく、学ぶことを重視する社会になってはじめて、創造的で活動的な個人が育つ。」
創造的で活動的な、生き生きとした人々とそのコミュニティ。技術者が共に学ぶ。迷いそうな岐路には矢印をつけておいたり、危険な場所があればそこにマーキングしたり、景色のよいところにはさりげなくベンチを置いたり、そんな活動ができたらいいな。
これからどのように進むか。全くわからないけれども、何かあったら、ハッシュタグ #janog_dp でtweetしてみて下さい。そういえばtwitterは、bottom up活動を可能にするメディアですね。電子Post Itみたいに使ってみよう。Brain Stormingの鉄則どおり、「どんなことでもよい」「自由奔放に発想する」「批判をしない」「質よりも量」で行きましょう。
[1] "Art of System Engineering", Mark W.Maier, CRC Press
[2] 「パタン・ランゲージー環境設計の手引き」、C.アレグザンダー、鹿島出版会
[3] 「時を超えた建設の道」、C.アレグザンダー、鹿島出版会
コメント