今年のMPLS Japan 2012は、MPLSの名が冠されるカンファレンスであるにかかわらず、テーマの大半がSDN関連であり、やはりSDN熱が高いことを実感させられた。私はプログラム最後のパネルセッション "MPLS meets SDN -- よくある歴史の繰り返しか、新たなアーキテクチャ可能性か"を担当することになった。
MPLSは今ではかなり成熟した技術に入り、私は既にこのカンファレンスの実行委員を退いているが、しかし今年は、このMPLS Japanというカンファレンスで、どうしてもやっておきたいことがあった。それは、「アーキテクチャ変遷の本質を探る」、ということである。
現在の、このSDNへの市場の過熱ぶりは、ちょうど15年くらい前のMPLSが出始めたときの過熱ぶりによく似ている。1990年代半ば、インターネットの商用普及に伴い、IPトラフィックが急速に増大した。当時は可変長パケットをハードウェアでは処理できなかったため、固定長セル交換であるATMが高速化の鍵と見られていた。しかし、ATMはConnection Oriented型の通信方式であるため、Connection Less型のIPとはそのままでは融和しない。そこで、多くの新たな技術が提案された。LAN Emulation(ATM Forum)、Ipsilon(その後Nokiaに買収される) IP Switch、東芝CSR、IBM Aris、3Com(その後HP) Fast-IP、Cascade(その後Lucent) IP Navigator…、そしてCisco Tag Switching。
IPをConnection Oriented方式のATMに融和させるために、殆どの技術は"flow"に着目した。(IPはDatagram/Connection-Lessであるが、flowはConnection Orientedある。)しかし、flowではステートが細かいため、スケール上の懸念があった。そこで、トポロジーによるflowの多重を提唱したTag Swithchingが市場の賛同を得、Tag SwitchingをMPLS(Multi Protocol Label Switching)という名称で標準化することになり、1997年にIETFにおいてMPLS WGが発足した。市場は、新たな通信方式の可能性に沸き立っていた。
しかし、間もなく可変長パケットもASICで高速処理できるようになり、高速転送技術としてのATMの必要性は無くなった。そのためATMとの融合のための技術としての、MPLSの必要性も無くなった。しかし、MPLSではTunnel/Overlay・VRF(仮想ルーティングインスタンス)などのネットワーク仮想化、Traffic Engineeringを実現したため、L2/L3 VPN提供技術やバックボーン仮想化技術として普及し、現在に至る。
SDNは、IPに捉われないアーキテクチャを一から考える(clean slate)プロジェクトであるGENIに端を発している。そこでまず提唱された技術が、Control PlaneとData Planeを分離し、Data Planeを、高速で安価なCommodity Switchに処理させるというOpenflowであるが、これはLAN Emulation, Ipsilon…などのアーキテクチャに結構似ている。Commodity SwitchをATM Switchに置き換えれば、殆どdeja-vuな感じがする。その他にも、Openflowの"Reactive vs Proactive"議論は、MPLSの"flow driven vs topology driven"に似ているし、また、Nicira CTOのMartin Casadoも、MPLSが既に実現したこと(具体的には、コアとエッジの機能分解、ラベルによるend-hostアドレスのコアからの分離、明示的なpath setup)に学ぶべき、というような主旨の論文(http://yuba.stanford.edu/~casado/fabric.pdf) を書いている。
また、プログラマビリティ、集中制御の要求は、SDN以前にも脈々と存在していた。古くはIN(Intelligent Network)、最近でもMegaco, Soap, Parlay-xなどによるApplication Aware/Policy Aware Control。SDNが可能にする技術それぞれは、別に新しい物ではない。それどころか、あまり市場に受け入れられたとは言い難いものに近い感じがする。しかし、MPLSの時も、多くのhypeが起こり、多くの技術が忘れ去られたが、確かに、長く残った要素はある。
そこで、MPLSによるアーキテクチャ変遷とSDNを対比させることにより、現在の、SDNによるアーキテクチャ変遷の本質を探りたいと思ったのだ。
...その(2)に続く。
コメント