ここ暫くもやもやと考えていた「多様性のアーキテクティング」について、整理しておこうと思う。(最後に少しお知らせもあります...。)
- 用語の定義
- なぜ多様性が必要か
- 多様性の問題点
- 多様性のアーキテクティングとは
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1. 用語の定義
- 多様性:同様な目的を達成するための選択肢が複数存在する状態
- アーキテクティング:アーキテクチャ(システムや組織の構造)を設計すること
2. なぜ今多様性が必要か
- 現在我々を取り巻く環境は増々複雑多様化している。
- 現時点の顧客や主要マーケットの要望にしっかり対応し、競合の状況もよく分析し、新たな技術開発への投資も積極的に行っていても、想定外の"disruptive technology"が台頭してきたときに、対応できず失敗する。("The Innovator's Dilemma - When new technologies cause great firms to fail", Clayton M. Christensen) [*1]
- 多様性に打克つことができるのは多様性のみである。即ち、取り巻く環境が多様な場合、システムはそれ以上の多様性を内包している必要がある。(“Requisite variety and its implications for the control of complex systems”, W.R. Ashby)
3. 多様性の問題点
- 多様性が必要とはいえ、ただ只管多様化すればよいという訳ではない。
- 多様化により、必要なリソースとコストは増大する。リソース競合や不整合も起こる。
- 多様性の増大とは、即ちエントロピーの増大に他ならず(前述のW.R. Ashbyは、多様性を定義するにあたって、Shannonの「情報エントロピー」計算式を流用している)、必要以上に多様性が増大すると、複雑性も増大し、システムは破綻する。
- そのため、必要以上の多様性の増大を戒めるために、"Do not re-invent the wheel"ということわざもある。
- また、例えば人間組織の場合、同様な目的を持つ組織が複数存在すると、縄張り争いや足の引っ張り合いが起こる可能性もある。
4. 多様性のアーキテクティングとは
- システムが、できるだけシンプル・スケーラブルでありながら、必要な多様性を包含できるように、アーキテクチャ設計を行うこと
- 具体的な方法論としては、「仮想化(Virtualization)」と「適応的デザイン(Adaptive Design)」が中心となる。
- まず、限りのあるコストとリソースで多様性を実現するためには、それぞれの構成要素にリソースを占有させる訳にはいかない。リソースを仮想的かつダイナミックに割り当てる必要がある。
- また、仮想化とは「階層化して抽象化すること」であるから、機能を複数のレイヤに分割することにより、複雑性を縮減することができる。
- 必要以上の多様化を避けるため、随時状況を観測し、多様化のための「発散」が行き過ぎたら、「収束」に向かわせるような設計介入が必要であろう。「適応的デザイン」は、このために必要になる。
- レイヤの概念は、この「発散と収束のサイクル」の観点からも、有用性を発揮する可能性がある。各レイヤにおけるこのサイクルの位相が異なれば(=あるレイヤが多様性を増大させていても、他のレイヤにおいて収束していれば)、全体としては破綻しない、ということが言えるかもしれない。
[*1] Cisco Systemsは、1999年にサンフランシスコで実施した通信事業者向けワークショップの記念品(?!)として、この本を参加者全員に配った。(私は当時主催者側であったが、余った本を貰って、今も大切に持っている。)このときは、当時の通信事業者の主流サーヴィスだった電話に対して、TCP/IPがdisruptive technologyであることを、この本に託して、メッセージアウトしたのだった。
あれから12年以上を経た今、今度は次のdisruptive technologyに備える局面を迎えている。Juniper NetworksのMike Beaselyは、先週のInterOp講演で、SDNをdisruptive technologyと見たて、"Accept the disruptive technology"と言った。SDNがどの程度"disruptive"であるか今はまだわからないし、disruptionはもっと上のレイヤで起こるような気もするが、いずれにせよ、disruptive technologyに対応するためには、多様性が必要であることは確かだ。
Juniper社は素晴らしい企業で今も大好きなのだが、一つのアジェンダを皆で一貫して、一枚岩的に実現しようとする機運がある。マーケットがある程度安定しているときは、その戦略が最大の効果を発揮するが、今のような転換期においては、多様性とダイナミズムに欠ける感じがしてならなかった。そこで、暫く悩んだ末、もう一度一からやり直すことにした。
...という訳で、6月26日から職場を変わり、新たな気持ちで頑張るつもりでおります。「多様性のアーキテクティング」をテーマに、様々なことに取り組んでみたいと思っています。Juniperにはいろいろな機会を与えて貰い、本当に感謝しています。職場が変わるとは言っても、一企業というよりは業界全体に貢献したいと本気で思っておりますので、今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。
そういうことですか。今後とも、よろしくお付き合いください。
投稿情報: とおる | 2012.06.23 05:50
とおる先生、ありがとうございます。また、Internet Hall of Fame受賞, 本当におめでとうございます。素晴らしいです!
投稿情報: Miya | 2012.06.24 08:54