先日帯広で開催されたJanog20で、「RoutingとAddressingのこれからを考える」というセッションを行った。
2006年10月のIAB workshop以降、IRTF, IETFを中心にインターネットアーキテクチャの再考論が高まっている。IPv6はアドレススペースの問題を解決するが、アーキテクチャとしてのスケーラビリティ問題を解決しない。しかし、アーキテクチャを変える可能性がある、ということは、諸々の前提を変える可能性があるということである。そして前提が変われば、技術もビジネスも何もかもが変わる可能性がある。
「これは日本でも意識共有しておいた方がよいのでは」、と、前回のIETF68(プラハ)で東大の加藤先生とNTT Eastの水越さんが声をかけて下さったことがきっかけになり、Janogでのセッションを実現することになった。いろいろ議論をして行くうちにIIJの浅羽さんが賛同して加わってくださり、また、米国での状況をrealtimeで報告したいという要望に、同僚で現Juniper DEのRobert Raszukがわざわざ帯広まで駆けつけてくれた。セッション当日まで、このメンバーとface to faceやemailで四方山話をしたり、過去からのhistoricalな類似問題を紐解いたりすることは、非常に勉強になった。
今回のアーキテクチャ再考のきっかけは増大するRIB/FIB容量への問題意識であるため、現在の提案としては、LocatorとEnd IDを分離し階層性を与えることによって(=TransitのRIB/FIBはLocatorのみを保持すればよい)、スケーラビリティを担保しよう、というものが主流である。しかしそのために新たなmapping schemeとその制御が必要になるし、方式自体によるdrawback(Tunnelingのオーヴァヘッド等)も、充分吟味されなくてはならない。また、stability/ fast convergenceのtrade-offに対する折り合いをつけるのは簡単なことではない。Multihome, Provider Independence, Mobility, Traffic Engineeringと言った要望を実現するのも所与の条件である。
こう考えると、現在の提案方式も、それが有用なものであったとしてもまだまだ検討の初期段階にあると言わざるを得ないし、また、本当にそれが有用かどうかは、全く分からない。RIB/FIB容量が本当に問題なのかもわからない。確かに全てのリソースに限界はある訳であるが、少なくとも当面の需要(数百万経路、将来的には一千万経路見込み)に対応できる目処はあるし、アーキテクチャを変更するコストが、それから得られる効用を上回るかという点も疑問である。
とにかく、ここは我々自身がじっくり考える必要がある。インターネットはトランジションすべきなのか。「じっくり考える。」 -- これが、セッションを行った動機であり目的である。
実は、このセッションにより「アーキテクチャ変更」を必要以上に煽ってしまうのではないか、ということも危惧したが、どうやらそれは杞憂に終わった。Randy Bushの「そんなの複雑性を増すだけじゃない」というコメントは揮っていたし、私なりに「じっくり考えた」今のところの結論は、当初の大きな構えとは異なり、「インターネットは巨大プラットフォームであり続ける。ただそれだけ。」というものだ。これは長くなるので別途書く。
それにしても今回のJanogでは、レッシグの言うところの「市場、規範、法、コード」を考えるネタが結構揃った。
- 市場=技術、サーヴィス、ビジネス
- 規範=コミュニティとそのあり方
- 法=総務省と警察庁!
- コード=技術とアーキテクチャ
関係者の皆さんに大大感謝。
最近のコメント