Startmac #8
という訳で、改めて著作権法というものを考えてみる。
まず、私は著作権法を遵守することに何の依存はない。法律を守るのは当然だし、それ以上に、音楽で生計を立てている人に対して報いる一つの方法として著作権法があるのであれば、積極的に擁護したいと思っている。(話が少し逸れるが、純粋に経済的投資効率を考えると、音楽ほど投資効率の悪いものはない。幼少からのレッスン費、楽器、楽譜にかかる費用、教育費...、たゆまない研鑽に費やす時間。それでも演奏家としてひとり立ちできるのはほんの一握りである。しかし演奏家はまだましか。正門先生がおっしゃるには「(評価される年代は)ピアノ・ヴァイオリン:10-20代、声楽:30-40代、指揮者:50-60代、作曲家:死んだ後。」....。勿論、音楽・芸術は、経済原理でどうにかなる領域ではないので、経済的投資効率を考えるのは間違っているが、貴族によるパトロン制のようなものが無い現代、何らかの経済保障は必要であろう。)
しかし、今回著作権法、およびそれに関する資料を読んで、何と言うか少し違和感を感じざるを得なかった。
著作権法第一条(目的)には次のように書かれている。「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。 」
"隣接する"権利って何だろう。著作者"等"って何だ。
「著作隣接権」については、著作権法第四章にて記述されている。隣接権を持つものとして挙げられているのは、「実演家」、「レコード製作者」、「放送事業者」、「有線放送事業者」である。著作権法や、関連資料には、「権利者」という言葉がよく出てくるが、それは、この、著作者、演奏者、そして流通・メディア事業者を全部一緒くたにして、「権利者」と言っているのだ。そして「権利者の利益を損なわないように」、というのが法規制の大義名分になる。これは少しおかしくないだろうか。
著作者、演奏家の権利を尊重するのは当然だと私は思うが、流通・メディア事業者を混同させるのは、次の点で問題だと思う。
1.現在著作権法に指定されている流通・メディア事業者は、「レコード製作者」、「放送事業者」、「有線放送事業者」という既存メディアである。これは、著作権法が、インターネットのような新規参入メディアから既存メディアを守るために使われることにならないか。
2.著作者、演奏家と、流通・メディア事業者の利益が必ずしも一致するとは限らない。既に既存メディアで著名となった著作者、演奏家はよいのかもしれないが、そうでない新進の作曲家、演奏家は、新たなメディアを使って、視聴者とダイレクトにコミュニケーションを取りたいかもしれないし、全く新しい形でのプロモーションを図りたいかもしれない。また、ネットワークを使ったコラボレーションにより、一人ではできないような規模の大きいことができるかもしれない。(オープンソフトウェアを多数の人間の才知でよりよいものにして行くように。)しかし、現在の著作権法はこのような可能性も阻害する。
勿論、不法なコピーや、不法なネットワークへの流出を、禁止・コントロールする必要はあると思う。しかし、既存メディア事業者の利益と、芸術家の権利保護とを、全く同じものとして混同させるのは筋が通らない。重なる部分は皆無とは言わないが、それぞれ話を分けるべきではないだろうか。
おはようございます。コメントでは初めましてになります。第2期StartMacモニターでbunと申します。
私は稚拙ながら大学時代に混声合唱団に所属していましたので、何名かの指揮者の方にご指導を仰いだことがございますが、オーケストラの演奏をされておられる方の著作権に関するお考えに接するのは初めてでして、大変興味深く拝読いたしました。自分も今回のモニター活動にあたり、著作権に関する申請を初めていたしまして、いろいろと考えさせられることが多かったですし、ご存知の通り、自分が仕事で関わっているソフトウエアには著作権フリーの考え方もあり、看過できない文化的貢献を既に成し遂げています。大変に考えさせられる問題です。
ご指摘の2点につきまして、どちらについても説得的で鋭いご指摘だと思いました。直接音楽の著作に関わっているわけではないが大変に世論に対して影響力をもっているマスメディアが、既得権益の保護に著作権を悪用すれば、消費者(利用者)はきちんとお金を払っているのに、1次的な音楽等の著作者にそのお金がきちんと回らず流通業者ばかりが太るということになってしまいますよね。現にそういう傾向がちらほらと見て取れると思いますし、そうした傾向への警戒感を表明されたものと読ませていただきました。賛成です。
私が難しいなあと思うのは、徴収に関わる問題です。憲法で義務が明言されている税金ですら、完全に公平に条文通りに徴収されているかどうかを調査すると、税金を徴収する費用がかさんでしまうので現実にはやるわけにはいかないですが、税金ほど法令上の根拠が強くないこうした費用を、どうやって滞りなく、すすんで払う人が馬鹿を見ないよう公平に徴収したらいいのかとても難しいと思います。
生意気ながら、これからのエントリも楽しみにしております。長文失礼いたしました。
投稿情報: bun | 2007.09.19 07:54
bunさん、コメントありがとうございます。
Blogも拝見させて戴いています。スカボローフェア、きれいでした。これらのPodcastingのために著作権許諾の申請をされたのですね?詳しくお話お伺いしたいです。
投稿情報: Miya | 2007.09.20 08:00
はい。全くお察しの通りです。これも勉強だろうと思ってインターネット申請を一通りしてみました。いろいろな手続きが必要でしたが、ざっと振り返ってみますと3点ひっかかることがありました。
1.まず外国曲と国内曲で扱いが違います。外国曲はダウンロード数に応じて著作権料を払うので、カウンター等を設置してダウンロード数をカウントしなければなりません。
2.映像に添付する使用法の場合は、さらにやっかいで、どんな映像にどのように添付するのかここの事例で違うため、原曲のイメージを毀損するか否かの判断が必要だからでしょう、実質的にJASRACでは扱っておらず、個別に権利者と交渉(!)しなくてはならないのが原則のようです。大変に驚きました。自分はダイヤモンドヘッドに登ったときの動画をアップしたのでやはりベンチャーズのDiamond Headを一部でも(特に「デンデケデケデケ」です(笑))入れたかったのですが、この説明を聞いてやめました。
3.公的機関に対するインターネット申請の多くがそうであるように(国税庁に対するe-Tax等)インターネットだけで申請が全てできるわけではありませんで、プリントアウトして書類で申請しなければいけない手続きがあります。インターネットだけで完結するようにしていただきたいと思いました。
かの組織のみなさまも、世論や法律さまざまな要素を勘案した上で当面最もふさわしいあり方を模索しておられるに違いないのですが、音楽を利用する者の便宜が結構犠牲になっているのではないかと感じました。MacBookのiLifeのいくつかのアプリケーションに入っている著作権フリーの音楽は、今の著作権のあり方が逆説的に生んだものなのかも、と思い、ならば皮肉なことだと思いました。外資系のAppleさんが著作権フリーの音楽までつけて事態の活性化に一石投じている形になっているのですから。ざっくりと見たところでですが、SonxさんやYamahxさんの態度は比してあまりいさぎよいものに思われません。言い過ぎを恐れなければ、隠れ蓑にしていないだろうか、とも。
お求めの意見とずれていたらごめんなさい。拙見でよろしければまた何なりとお尋ね下さい。それにしてもあんな新郎新婦の親戚による結婚式の余興レベルの稚拙な演奏でお耳を汚していたとは!・・・自分の世間知らずに改めて辟易した次第です。
投稿情報: bun | 2007.09.21 03:57
bunさん、ありがとうございます。とても参考になります。
私の場合は、著作権者がイギリス人で、JASRACには登録が無く、あきらめてしまいました。
投稿情報: Miya | 2007.09.22 01:14
前のコメントの修正。作曲家のラターは、JASRACに登録されていました。JASRACデータベース(J-WID)で、ラター、ラッターと検索してmatchしなかったのですが、Rutterと入力したらmatchしました。恥ずかしい!
投稿情報: Miya | 2007.09.29 16:46