Blog更新の余裕がなくなったが、模索は続けている。
あまりに放置しておくのもよくないかもしれないので、近況報告代わりに、最近の読書レポートを。テーマは「創造性」。
1.
“Patterns
in Network Architecture – A Return to Fundamentals”, John
Day, Prentice Hall 2008
著者は、インターネットプロトコルの黎明期に遡って基本に返り、見過ごされてきた「パターン」を抽出することによって、そのプロトコル要素とアーキテクチャの根本原理を再定義する。そのパターンとは、「階層性による抽象化」、「(ある階層内における)アドレシングとネーミング」、などと言った、基本的な法則のようなものだが、確かに、最近はこれらの基本を顧みずに機能を追加し、ネットワークを複雑化させてきてしまったところがあることに気付かされる。
ではなぜ見過ごしてきたか。著者は次の4つを挙げる。「初期の刷り込み」、「初期の成功」、「ムーアの法則」、「社会経済的圧力」。初期の成功は、その時の前提や条件を固定化してしまう。また、ムーアの法則に則った集積度向上のおかげで、インターネットはスケールアップとコストダウンの双方を実現して来たが、それは専らハードウェアの増強により行われたため、アーキテクチャの基本原理はほとんど顧慮されることがなかった。さらに、インターネットへの社会的経済的期待が高まったことも、基本に返ることを妨げてきた。
徹底的に根源に立ち戻ることに拘るため、論調は哲学のようだ。例えば、アドレシングとネーミングの議論では、ゲーデル、ウィトゲンシュタイン、フレーゲが引用され、検証される。インターネットの現状や、IETFへの批判も含まれるため、本書の趣旨については賛否両論あると思うが、見過ごしていた、しかし無意識に自ら課していた条件に気付き、問題をより高次な次元から見直す、という点で創造的な書である。
2.
“The Art of System Architecting”, Mark W.
Maier, Eberhardt Rechtin, CRC Press 2009
本書は、数少ないシステムアーキテクティングに関する本である。従来のシステム工学的方法論ではなかなか捉えられなかった領域、例えば「協調的システム」、「社会システム」のような、スコープや目的自体を定義しにくいもの、また、「Layered Model」、「Agile Development」のようなソフトウェアでの新たな開発手法に関しても、アーキテクティングという視点から、正面から対峙する。
工学書では理論に裏付けられた方法論が主になるが、それだけでは、スコープ定義や要素還元ができないシステムには適用できない。そのギャップを埋めるために本書が多用するのは、「ヒューリスティック(経験則)」である。本書では、システムアーキテクティングに関連する180を超える経験則を引用する。「よいアーキテクチャかどうかの検証は、それが永続するかどうかによって分かる。」「難しいところから着手しよう。」「現在成功している製品をつくったチームは、その製品を進化させるにはベストだが、新たな代替品をつくるためには向いていないことが多い。」、等など。
経験則は、ユーモアに満ちているものも多く、また深く考えさせられる。また、これらの経験則をシステムアーキテクティングに応用するだけでなく、システムアーキテクティングで得た知見を、経験則としてさらに一般化、洗練化させて行くことができる。参考文献リストも興味深いものばかりだ。
3.
「生命記号論 – 宇宙の意味と表象」,
ジェスパー・ホフマイヤー著,
松野孝一郎 + 高原美規訳、青土社 1999
現在の科学や論理では、自己言及の問題を解決できていない。従って、社会システムのように、厳密には客観的にはなり得ず、スコープも不明確で、要素還元できないようなシステムを扱う場合、たいていの場合、個々のケースに応じて、実践的な方法論的アプローチを取ることになる。
しかし、もっと汎用的な理論を立論することはできないものだろうか。生命は常に自らを創出する自己言及システムである。この生命現象から何らかの仕組みを抽出・理論化し、検証できれば、「客観的・科学的・数理的アプローチ」と、「実践的方法論的アプローチ」とのギャップを埋め、橋渡しすることができないか、と考えている。そのような中で出会ったのが「生命記号論」だ。
著者は、自己言及の問題を、前向きにとらえる。「私はこのパラドックスを喜ぶべき事態だと考えている。このパラドックスは、創造的精神と同じ源から湧いてくるのではないか。」(第4章「自我の発明」より引用)
パラドックスは、メタ化・高次化により解消されるが、メタ化・高次化とは即ち「創造性」であり、そこには「創発性」も生まれる。また、そのような「創造性」「創発性」を記号論に結び付け、記述可能性を追求するこの本自体が、まさに「創造的」だと思った。
岡潔さんという数学者の方が、「情緒と創造」という本を書かれています。創造は、つまるところ「こころ」から生まれるのではないか。そして日本は戦後、「こころ」をないがしろにする教育を子供たちにしてきてしまったのではないかというメッセージもこの本にはこめられています。日本人は欧米人とは違う頭の使い方をしたほうが創造性が発揮できるだろうし、それが世界の中で日本人が居場所を見つける方法ではないかともこの本を読んでいて思いました。
突然コメント投稿してすみません。
学生時代magicpointというプレゼンツールを使っていて、itojun氏の名前でWeb検索していて、このブログに辿り着きました。
投稿情報: Tomonori Manome | 2010.10.03 14:29
Manomeさま、コメントありがとうございます。「情緒と創造」、早速オーダーしてしまいました。
itojunさんで検索して訪問していただいたとは、これも偶有性の一つでしょうか。
現在Blogから少し離れているのですが、そのうちまた復帰しますので、宜しくお願いします。
投稿情報: Miya | 2010.10.04 22:15
オーダーされたとのこと、びっくりしました。
“The Art of System Architecting”はむつかしそうですが、おもいきってチャレンジしてみようと思います。本の紹介ありがとうございました。
#面識は全くないのですが、学生の頃からitojunさんに憧れを持っていました。
投稿情報: Tomonori Manome | 2010.10.06 01:53
Miyaさん
いつもお世話になってます!
ヤギ編集者です。
ブログしていたんですね。
Miyaさんの思考力には
本当刺激を受けてきましたが
このブログもなかなか
読み応えがありそうです。
今後もよろしくです~
投稿情報: ヤギ編集者 | 2010.11.30 06:07
わぁ、八木田さんだー。
いつもそのヴァイタリティと、周囲を感動させる力に感心しています。私もがんばろう、と思います。
投稿情報: Miya | 2010.11.30 23:20