都響のパンフレットの楽員紹介のページに、各メンバーの写真と簡単なプロフィールが載っている。プロフィールの項目の一つに「音楽家としてのモットー」というのがあって、これがとても興味深い。
モットー(Motto)って、たぶん元は「大切な言葉」というような意味だろうか。転じて、信条とか行動指針とかを表すのだけれど、同じオケに所属する音楽仲間・同僚であってももう千差万別である。「感性や感覚を磨く」、「日々驚きを求めて」などの感性派、「明るく」「楽しく」とか「健康第一」とかいうヘルシー派、「人に楽しんでもらう」「ひとつひとつの演奏会を大切にする」などのサーヴィス派、「誠実に」「真摯に」「常に原点を忘れない」「一生学習・練習」というストイック派、「自然に」「シンプルに」「素直に」といったナチュラル志向、などなどなどなど。「音楽家としての」というよりは、それを超えた、その人の人間としての生き様のようなものを感じる。
ぶっとんだのは、何てったってソロコンサートマスターの矢部達哉さん。一言、「脱力」。もしインタヴュアーが意気込んで「あなたのモットーは?」と訊いたとして、こう答えられたら、インタヴュアーの方が脱力してしまうのではないか。いやしかし、これはすごくよくわかる。少しでも余計な力が入ると音は微妙に硬くなるため、豊かな音、深い密度の濃い音を出したい時こそ、脱力は重要。でも現実にはしっかり弦を抑えたり、弓をholdしてかつ制御しなくてはならなくて、これには勿論必要最少限の力が必要だ。だから演奏家にとって脱力は永遠の課題である。しかし、矢部さん程の方でも常に心がけておられることだということ、しかも「音楽家としてのモットー」とまで言ってしまうほど大切なことなのだ、ということに、何とも深い深淵を見たような気がする。
コンマスの山本友重さんのもすごい。「絶対的透明な響きを目指す」。「絶対的透明」ってあるのでしょうか?透明な響きとは?絶対的透明って??うーん。うーん。
さて、親愛なるチェロパートのメンバーはどうだろう。古川展生さん、「一匹狼」。ひぇー。そうですか。そうだったのか。そして我が尊敬する師匠、江口心一さん、「夢ある音を求めて...。」そういえば江口先生は、勿論具体的なアドヴァイスもして下さるが、時々夢の世界からの伝言のようなことを口走る。「うーん、楽器が喜んでない!」 「楽器を弾こうとするのではなくて!」
私の「音楽家としてのモットー」を訊かれたらどう答えるかな。取敢えず今は「仮想と物理現象とのよりよいマッピング」かな。あ、これは仕事でも結構当てはまるかも。
音楽家ではないのですが、「静寂の中で聞こえてくる静寂」は好きです。
自然の中で小さな存在になると聞こえる気がします。
投稿情報: Canadi>n | 2009.02.21 10:31
仮想と物理現象とのよりよいマッピングっていいですね。
仮想部分はきっと、作曲家の意図、演奏家の意図、聴衆の期待、その場の空気などが相まってできる世界、それを最適な物理現象にいざなうことができるかどうかは、演奏家の腕次第という所になるんでしょうかねぇ。
ちなみに音楽の始まりってすごく難しいというか、静寂を打ち破って曲をスタートさせる時の瞬間の緊張感って宇宙の始まるビッグバンのその瞬間と似たような感覚なのかしらと大げさに思ってみたり。演奏家からしたら、その曲をスタートする前には頭の中で様々な想いが巡っていて本人的には曲のスタートに自然につないでいるつもりでも聴衆からしたらそうではないかもしれない。宇宙のビッグバンも、宇宙の中にいる地球人から見ると何がキッカケでビッグバンが起きたのかさっぱりわからないくても、もしかしたら宇宙の外にいる立場からみたら至極自然な流れの中で発生している現象にすぎないのかもしれませんね。
投稿情報: まこまこ | 2009.02.22 23:01